25 11月 2021

Crackless - シアノアクリレート接着剤開発に新世界を拓く

およそ70年にわたり製造されてきたシアノアクリレート(エチルシアノアクリレート(ECA)とメトキシエチルシアノアクリレート(MECA)を含む)は、クネーフェナーゲルプロセスを通してかなりの成功を収めてきました。同プロセスは接着剤業界のバックボーンとなり、世界的な大手ブランド多数の開発をリードしてきました。

しかしその成功にも、プロセスの限界がありました。特に顕著な短所は、凝結と熱分解という2段階の反応が続けて起きることで、これにより長い分子が短く分解されます。

最初の凝結には時間がかかり、環境に悪影響を与える溶剤が必要になります。次の熱分解はさらに長時間を要し、反応に非常な高温(最大180℃)が必要なことから多くのエネルギーを使います。しかも大半のモノマーで低量から中量の収量しかもたらしません。

近年メーカーでは実際的な代替手段、特により高速で省エネルギー、低温、よりサステナブルな代替手段を求めてきました。もちろん、同時に高い収率も必要です。こうした要望に応えるかたちで、2017年に「Crackless」プロセスが開発され、特許を取得しました。

Cracklessを開発したのはスペインの接着剤企業Afinitica(現在はBostik傘下)でした。これによりクネーフェナーゲルプロセスに起こりがちな課題のほぼすべてが解決されました。それを受けてBositikのような企業が新規にBorn2Bondエンジニアリング接着剤シリーズ内で 瞬間接着剤製品を開発することが可能になりました。

これら製品の多くはMECAベースです。MECAはECAと同じくらい長く存在してきたシアノアクリレートですが、クネーフェナーゲルプロセスで生産するのは高価かつ困難でした。

新しい接着剤の実行可能な製造

Cracklessプロセスの前進によって、今では新しいMECAベース製品の開発が実行可能になりました。これによりさらに多くのMECAベース接着剤の開発が可能になり、こうした製品にあるべき性能すべてを実現することができます。低臭であるため忙しい生産ラインで働く人々にとってより健康的で安全です。さらに2つのピースを接合したときにできる美観的に問題のあるブルーミングが少なくなり、ファッション(クリスタルやガラスのアイテム)や家電など美観が重要である高価品業界での使用にも適します。

Born2Bond CA comparison chart

Cracklessプロセスはクネーフェナーゲルと比べてエネルギー消費がかなり小さいため、企業のサステナビリティアジェンダを実現するのにも役立ちます。

Cracklessはまた、医薬品業界で傷手当に使われるモノマー類を含め、他のシアノアクリレート類についても、さらに効率的でサステナビリティに優れた製造を可能にします。

これらには中間鎖CAの一種であるブチルシアノアクリレートもあり、皮膚の傷を閉じるために広く使われる最初の製品となりました。またより長鎖のCAである2-オクチルシアノアクリレート(2OCA)は皮膚の浅い切開や裂傷を閉じるとき、また顔面の皮膚切開を閉じるときに非吸収性の縫合に代えて使われます。これは、ブチルCAよりも強力な接合を達成し、より柔軟性に富む傾向があります(容積測定で破壊強度は最大でBCAの4倍)。短鎖のMECA と ECAはともに組織に対する毒性がありますが、ブチルと2OCAに毒性はなく、傷の治療に新しい可能性を拓きました。

ジョイントベンチャー展開

このたび、Bostikは台湾の化学薬品会社CartellとのジョイントベンチャーCrackless Monomer Company (CMC) を設立しました。Cracklessプロセスを用いてこれまで実効性に乏しかった高性能シアノアクリレートの価格を求めやすいものとし、世界中のお客様に入手可能とすることを目的とする旨を宣言しています。

これで、従来「実行不能」な製品が効率的またサステナブルに製造可能となるだけでなく、工業規模での生産が可能になります。それは以前には不可能だったというわけではありませんが、ひび割れを起こす「従来」プロセスでの生産は非現実的だったのです。新しいモノマー類もこれまで実現しなかった方法で生成され、より高い能力、柔軟性、用途を伴うことになります。接着特性、コーティング特性を備えたそれら製品は、メーカーがより優れた工学製品を作り出すことを可能にします。(BostikのBorn2Bond 瞬間接着剤シリーズは、よりスマートでよりエコフレンドリー、そして安全性が高いCracklessプロセスによって開発された接着剤ファミリーの代表例のひとつです)。

こうしてシアノアクリレートの能力が解放され、さらなるモノマーをお客様の現行ポートフォリオに加えることが可能になりました。ここからエポキシとシアノアクリレートのハイブリッドが開発され、同時にECAとMECAの混合が実現してイノベーションの中でより大きなメリットをもたらすことになります。またモノマーには、接着剤を越え、3Dプリンティング、シーリングやコーティング用途、その他独自プロジェクトに使われる可能性が広がります。

文責:Ph.D. Isidro Cobo – Arkema-Bostik研究開発·ビジネス開発マネジャー


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